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アボダートの処方

アボダートとはイギリスの製薬会社であるグラクソ・スミスクライン社から販売されているデュタステリドを主成分とする薬剤です。日本では大鵬薬品工業とのコ・プロモーション(複数の製薬会社が並行して医療品を販売すること)によって、「アボルブ」の名で流通しているため、こちらの方が馴染みがあるかもしれません。もともとは前立腺肥大症に対する治療薬として開発された薬剤でしたが、研究中にAGA治療薬としての効能が発見されました。アボダート(アボルブ)はあくまでも前立腺肥大症の治療薬であり、AGA治療薬としては認可されていませんが、海外ではAGAに対する高い効果からAGA治療薬として利用されるケースも多くみられました。こういった事情から、中身はそのままにAGA治療薬として認可を受けたのが最新のAGA治療薬として注目されている「ザガーロ」です。いずれもデュタステリドを主成分としており、アボダート(アボルブ)はザガーロの元祖・先輩格と言える立場にあります。

AGAとは

AGA(男性型脱毛症)とは成人男性にみられる薄毛の症状で、額の生え際や頭頂部、あるいは両方の髪が薄くなった状態のことです。①遺伝(主に母方)、②男性ホルモンの増加、③頭皮の血流の悪化、の3つが主な原因とされており、現在AGA治療薬として流通している薬剤はいずれも②と③の原因を軽減・解消してくれます。②の対策となるのは「5α還元酵素阻害剤」に分類されるフィナステリドやデュタステリドといった成分で、こちらは抜け毛の進行を防ぐのに対して、③の対策となるミノキシジルは、血流を改善することで積極的な発毛を促します。フィナステリドやデュタステリドが生えている髪の毛を守る守り担当、ミノキシジルが新しく髪の毛を生やす攻め担当というイメージがわかりやすいかと思います。

フィナステリドとミノキシジルは2010年に日本皮膚科学会が発表したAGA治療のガイドラインにおいて、どちらも「Aランク」(強く行うよう勧められる)にランクインしています。デュタステリドは登場が2010年以降だったためにランキングには含まれていませんが、フィナステリド以上の効果を有することが科学的に立証されているため今後ランクインする可能性が高いとされており、実質的にはAランクとして扱われています。このランキングに則り、現在のAGA治療ではフィナステリドorデュタステリドとミノキシジルの併用がスタンダートになっています。

ヘアサイクルとアボダートの効果

髪の毛は「成長期→退行期→休止期」というサイクルを繰り返します。「ヘアサイクル」と呼ばれるこの流れは通常4~6年程度で1周するのですが、AGA患者の方はこのバランスが崩れてしまい、髪の毛が十分に成長を遂げる前に毛が抜けてしまうため薄毛になってしまうのです。ヘアサイクルの乱れは「ジヒドロテストステロン」(DHT)と呼ばれる男性ホルモンが原因です。ジヒドロテストステロンは、男性ホルモンの1つである「テストステロン」が「5α還元酵素」によって還元されて生まれる、より強力な男性ホルモンです。胎児の健全な性器の発達に不可欠な、男性にとって重要な役割を持つホルモンなのですが、AGA治療の観点からは非常に厄介な存在になってしまっているのです。

アボダートの主成分であるデュタステリドは5α還元酵素の働きを阻害し、ジヒドロテストステロンの生成を防ぐことでヘアサイクルを整えます。作用機序はフィナステリドと同様ですが効果はデュタステリドの方が高く、約1.6倍の効果を持つとされています。また、フィナステリドが2種類ある5α還元酵素のうちII型にしか効果を発揮しないのに対し、デュタステリドはI型とII型の両方に効果を発揮します。そのため、フィナステリドで十分な効果を得られなかった方でも、デュタステリドに切り替えることで効果を得られる可能性があります。

アボダートの服用方法

アボダートはデュタステリド用量0.5mgのもののみが流通しています。1日1回、1錠を服用してください。服用タイミングは自由ですが、服用後に効果が持続するのが24時間とされているため、毎日決まった時間に服用することで血中濃度が安定するようになり、効率のよいAGA治療に繋がります。食事の影響で効果が増減したりすることはありませんが、肝臓への負担が大きくなるためアルコールとの相性は良くありません。同時に摂取しないことはもちろん、服用期間中はなるべくアルコールを控えるようにしてください。AGA治療薬の特性上、効果を実感するまではどれだけ早くても3ヵ月、平均的には6ヵ月~1年程度の時間が必要になりますので、根気よく服用を続けていってください。

アボダートの禁忌と副作用

下記のいずれかに当てはまる場合、アボダートを服用することができません。

・5α還元酵素に対し過敏症歴がある方

・女性及び小児の方

・重度の肝障害をお持ちの方

アボダートは男性ホルモンに作用するため、性欲減退やED(勃起不全)といった男性機能の低下、非常に稀ですが乳房の痛みや女性化などの副作用が起こることがあります。副作用とは異なりますが、服用中は献血ができないこと、前立腺がんなどの診断に使われるPSA値が大きく変動することにも注意が必要です。これらの場面では必ず、事前に医師にアボダートを服用中である旨を伝えるようにしてください。

アボダートの購入

個人輸入や通販などの手段を使えば、日本国内でもアボダートを購入することは可能です。しかし、ネット通販では製造元や流通経路が明らかでない薬剤が紛れていることがあり、6割という高い割合で偽造品が混入していたという調査結果も報告されています。偽造品を服用してしまった場合、金銭的なダメージはもちろんのこと、最悪の場合健康被害を被ることすらありますので、AGA治療の際は専門の医療機関やクリニックを受診し、医師からの処方を受けることを強く推奨いたします。